中国の風俗業の「金三角」と呼ばれる上海近郊

中国における性や風俗店をめぐる厳しい規制、抑制的な対応で固められた表層の内側で、地滑り的な開放が進み、混乱さえ生じている。これを主導するのはコマーシャリズム、性さえ商品化せずにはおかない市場化の有無を言わせぬ力である。上海の街頭を散歩するだけでそれは感知できる。

中国の風俗の復活は既にニュースではない。理髪店、サウナ、マッサージパーラー、さらにはカラオケなどを舞台とする性的なサービス、売春の蔓延に対し、時に集中的な取り締まりが行なわれるが拡大が止むことはない。売春などで摘発された女性を再教育する施設の収容者数は、今や全国で年間四万人前後に達している。

上海市の近郊、浙江、江蘇両省と境界を接するあたりに、九〇年代半ばから、知人が「金三角(ゴールデントライアングル)」と呼ぶ、風俗産業の一大密集地が形成された(知人によると、中国内部の省と省との境界地域は、双方の管理が緩む一種の空白域が出現しやすい特性があるという)。江南地域を無数に走るクリークに囲まれた何の変哲もない小都市に、大小のホテル百カ所、ディスコ、カラオケホールなど百数十カ所、理髪店数百店が密集し、化粧の濃い女性が多数が路上で客引きをする、「紅灯区」と呼ばれる盛況が夜な夜な出現した。

しかし、九八年に警察当局の集中風俗店摘発を受け、火が消えたようになってしまったという。国際的大都市に近過ぎる地域に、公然たる風俗産業地域が出現し、しかもそれが話題を集め過ぎたことをさすがに配慮したとみられている。

風俗産業の業種はおしなべて高収益である。でありながら、正規の法的な保護を得られない。よって「黒社会」と呼ばれる裏の力を頼り、たかられ、さらには表の権力と腐敗した関係に入ることもやはり不可避である。こうした風俗業が地域の利害と深くかかわるほど、摘発、是正は困難になる。

上海市内にある中国国内初の公開された劉臨達氏の性の博物館である「中国古代性展覧」が、閑古鳥が鳴く状態となるのも、実は当然のことかも知れない。中国の性をめぐる変化の現状は、中国初の博物館開館でさえをはるかに置き去りにしてしまう勢いで、前進してしまっているのだ。

 
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